午前0時。今日も彼女は終電で俺の家にやってくる。
「お邪魔しまーす」
アルコールの匂いを身につけて家に上がり込む。ああ、今日も飲んできたんだな。
「風呂沸いてるから入っといでよ」
「やったー!お言葉に甘えてお風呂借りまーす」
いつも風呂は借りてるじゃないか、というのも面倒でそのまま脱衣所に消える彼女を見送った。
彼女とはいわゆるセフレという関係だ。
だが、彼女に交際相手がいないことも、彼女の家も生活も性格も恋愛遍歴も性感帯もそれこそ全てを知っている。ただひとつ俺たちの関係に足りないのは恋愛感情というやつで、それを除けばセックスもしてるし、一緒に飯も食うし、時々電話もするし、普通のカップルと変わらない。
彼女は気が向いたときに俺の家に上がり込んで、一緒に寝て、時々セックスもして、翌朝特に何もなく、家を出ていく。
彼女が俺をどう想っているのか知らないが、俺は彼女のことが好きだし、ちゃんと交際したいとも思っている。
「お風呂ありがとう、ってもう寝るの?つまんなーい」
「うるせえよ、酔っ払い。俺は明日早いんだっての」
「じゃあ私も寝るかぁ」
彼女の恋愛遍歴を知っているからこそ、俺は想いを告げられないままでいる。
「あのさ」
ベッドにもぐりこんだ彼女をそっと抱きしめる。予想に反して拒まれない。
「このまま寝てもいい?」
「それはヤダ」
拒まれてしまった。ただ、腕は振りほどかれない。
「じゃあ、しよっか」
「寝るんじゃなかったの」
「どっちにしたって寝ることには変わりないよ」
「うわぁ、屁理屈」
「そう言いつつ応じてくれるあたり好きだよ」
彼女は愛をベッドの上でしか受け止められないことを俺は知っている。だから俺もベッドの上でだけ、彼女の全てに溢れるほどの愛情を注ぐのだ。
これも「確かに恋だった」から…?