朝が来た。
日の出も遅くなったものだ。
隣で寝ている同居人を起こさないようにそっとベッドを抜ける。フローリングの冷たさに声を上げそうになりながら窓辺へ向かう。
窓を開けると、凛とした冷たさが肌を刺した。
あの暑かった夏はとうに過ぎ去ってしまったのだと感慨に耽る。騒がしさと茹だるような暑さがもう遠い日のことに思えた。
「……寒い」
声がして振り返ると、同居人が毛布にくるまって立っていた。
「おはよう、まだ寝てても良かったんだよ」
返事もせずに自分の隣へと移動してきた。同居人は朝日の眩しさに目を細めて「物好きだなぁ」と呟いた。
きらきらと光に照らされたその横顔が現実のものとは思えない美しさで、思わず見惚れてしまった。
ふと同居人が、あ、と思い出したように声を上げた。
「おはよう」
ふわりと緩んだ頬に心がくすぐられる。たった四文字に胸が躍らされる。それだけで幸福感が満ちる。
「……おはよう」
訳もわからず胸がかき乱されるように愛しくて、愛しくてたまらなくなる。口に出してしまうには、愛を囁くには、朝はあまりにも静かだった。
ふたりでしばらく窓辺に並んで立っていた。抱き合うこともなく、言葉を交わすこともなく、ただ立っていた。ふたりの間には「おはよう」とただ一言で充分だった。
目覚まし時計のベルがけたたましく鳴り、我に返る。すっかり身体が冷えてしまった。窓を閉めてもまだ寒い。
寒いね、とこぼしながら毛布をきつく身体に巻き付ける同居人はそのまま台所へと向かっていった。
ようやく一日が始まる。
同名の詩(曲)から派生。二人の性別の解釈は自由です。