礼儀作法、文字の書き方、剣術──今のオレを構成する殆ど全てのことはお前が教え込んだよな。
剣術については「小十郎はあなたにそのような無謀をお教えした訳ではございませぬ」とお前は渋い顔をしてたけど、それは元々小十郎を追い抜かんとするためにオレが編み出したもんだ。だって刀一本で手合わせをするとまだ苦戦を強いられてるじゃねぇか。最近ようやく勝てるようになった程度だ。God damn you!
おっと、話は終わらねぇぜ。
何もお前が作ったのは対外的なものだけじゃねぇ。
もっと内面、オレの心の奥の奥。オレを成り立たせる根幹を作ったのはお前だ、小十郎。
希望も、野望も、信頼も、愛情も何もかも、全部お前が絶望と疑念しか持っていなかったオレに与えてくれたんだ。勿論、恋慕も。
「──だから、オレに関する全てにおいてお前が関係してねぇことなんて何一つ無いんだ、you see?」
とうとうと語り、ビシッと指を向けると「何を仰るかと思えば」と小十郎は呆れ顔をした。
「なんだよ、小言は聞かねぇぜ?」
「いいえ。どうして小言など申しましょうか」
小十郎は照れ臭そうに「正直嬉しゅうございます」とはにかんだ。
戦場でも、軍議でも絶対に見せない表情にオレは声が出なかった。
「しかし、それは政宗様に限ったことではございません」
「どういう意味だ?」
「この小十郎においてもまた、あなたが関係しないことなどありません」
「そんなことは無ぇだろ。オレはお前の十も下だぞ?剣術だって何だってオレが教わったんだ。オレがお前に与えたモンなんて……」
何一つ無いじゃないか。
言い澱んだ思いは図らずもオレを抉るように傷つけた。分かってはいたのに、切なかった。
「たくさん賜りました」
オレの手を恭しく取って幼子をあやすように笑みを浮かべ、オレはその笑みに照れ臭くなって照れ隠しにガキっぽく唇を尖らせた。
「確かに政宗様より先に生を受けましたが、竜の右目を賜り寵愛を受けている。副将の立場も政宗様がおられるからこそ。小十郎の身につけた技、作法、それら全ては政宗様の為にございまする」
壊れ物を扱うように優しく手を離し、小十郎は背筋を伸ばした。
「さて、これでもこの小十郎に政宗様が関係しないところがあると仰るか?」
意地悪く笑みを浮かべた小十郎に、この性格を作ったのも小十郎だなと確信を抱いた。恐らく戦場でオレは同じように笑っているはずだから。
お題:確かに恋だった
英文解釈が間違っていたら恥ずかしい。