「して、何の御用にございますか」
仮にも奥州筆頭の前だというのに小十郎は不機嫌を隠そうとはせず憮然とした表情を浮かべた。
仕事の途中に呼んだのが原因だとはさすがに分かる。
「大した用じゃねぇよ。ただ顔が見たかっ──」
「まだ仕事が残ってます故、これにて失礼」
オレの言葉を遮り、立ち上がって部屋を出ようとしたから声を張って止めた。
「ちょっ、stop!Jokeだから戻って来い!」
奥州筆頭ともあろう奴がこんなに必死になるとは我ながら情けなくて涙が出そうだ。しかし必死の説得もあってか、小十郎は盛大に溜め息をついてオレの前に腰を下ろした。
「再度訊きましょう。何の御用で?」
「……用が無いとダメかよ」
用などもとより無かった。顔が見たいというのは本心だ。あわよくば、という下心はあるがそれにはこの際目を瞑ろう。小十郎が部屋を出たらそれすらおじゃんだ。
「我が儘が過ぎますぞ、政宗様」
溜め息と共に吐き出された言葉は免罪符。
小十郎は大概オレに甘い。逆も然りだが意味が違う。
そんなことはどうでもいい。許しが出た。逸る気持ちを抑える。
「小十郎」
期待を込めて名前を呼ぶ。
小十郎は渋々といった体で首肯した。
「少しならばお付き合い致しましょう」
「小十郎ォォ!」
ガバッと抱きすくめると腕の中で小十郎が身体を固くしたのが分かった。
察しが良いのも困りもんだろうな。
「……政宗様」
恐る恐る小十郎に名前を呼ばれる。
この後の展開はもう目に見えているんだろう。逃れられないことも、少しで済まないだろうことも。
「何だ、小十郎」
「まさか、とは思いますが……」
「その、まさかだ」
「なっ」
ニヤリと笑うとそのまま体重を前にかける。当然、小十郎は背中から畳に沈む形になる。
オレを見上げる小十郎の瞳に背筋が粟立つ。普段見上げてる奴を組み敷くのは、言い様の無い快楽だ。
「小十郎は少し、と申し上げましたが」
「Ha!そんなに急かすなよ」
「急かしてなど……!」
「Ah?オレにはそうとしか聞こえなかったぜ」
返事の無い小十郎の頬に手を滑らせる。
「覚悟の上だろう?小十郎、観念しな」
「……仕方の無いお人だ」
ふっと笑ったのを皮切りに、オレは羽織に手をかけた。
小十郎がツンデレなのは仕様です。