今もよく覚えている。否、忘れたためしなど無い。
初めて見(まみ)えた時に沸き上がったあの身を焦がす感情をどうして忘れることができようか。
「具合でも悪いか?ボケッとしちまって、珍しい」
「いえ、感慨に耽っていただけ。ご心配には及びませぬ」
生返事をした主はそれ以上訊ねるでもなく、杯に口をつけた。
夜空を見上げれば今宵は新月で数多の星が煌めいていた。
元々先代の小姓であったし、異父姉が乳母をしていたこともあり、幾度か話は聞いていた。勿論右目のことも、それが原因で鬱いでいたことも。
これから仕えなければならないと知った時は、そんな主とうまくやっていけるかという不安もあった。──それを誰にも漏らしたことは一度も無いが。
それでも挨拶に、と伺った時、あれから俺の世界は動きだした。
「──十年か」
「Ah?どうした?」
思わず口にしてしまった言葉じりを政宗様は拾った。
「政宗様にお仕えしてからの歳月です」
「そんなになるか」
あの時の小十郎と同じ年齢か、と零した政宗様に口元が緩む。同じことを思っていたのか。
第一印象はまさに、竜。
鬱ぎ込んでいた政宗様──当時は梵天丸様だが──の内に秘めた気性を肌で感じ取っていたのだと振り返って思う。まさに現在の独眼竜の名に相応しいその気性を。
猜疑心に溢れた隻眼の奥に静かに、なのに激しく燃えるものに俺は一瞬で魅せられた。ある意味一目惚れだったのだ。俺はこのお方のためなら命を賭しても構わないと、その意志に呼応するかの如き激情に当時身を焦がされた。
それは未だに燻らず、なお俺の胸で熱を発する。
刀にも刻んだ想いは一度も揺るいだことが無い。
「なぁ、小十郎」
「何でしょう」
「オレ、──」
この後紡がれた言葉に、俺が思わず言葉を失ったのはそれとはまた別の話。
この先はご想像にお任せします。