a cup of tea

 イギリスは動揺していた。
 何故ここにいるのか。一体何をしたいのか。

「未練、じゃねぇよな」
 一番考えたくない答えを彼は自嘲じみた笑みで吐き捨てた。
 イギリスはアメリカの家に来ていた。正確には家のドアの前に、だ。
 深く長く息を吐いた。意を決してドアノブに手をかけた。ドアは何の抵抗もなく、簡単に開いた。勝手知ったる弟の家。不法侵入だと責め立てられるという危惧は生憎イギリスは持ち合わせてなかった。
「アメリカ、いないのか…?」
 やけに家の中が静かだったので、思わず声をかけた。しかし、壁や天井に反響するだけで返事は返ってこなかった。
 無用心な奴だな、と苦笑した。そしてコートを脱ぎ、見えぬ弟を探すことにした。

 アメリカはそう労せず見つかった。
 陽の当たる暖かなテーブルに突っ伏して眠っていた。
「まったく……。おい、アメリカ。そんなとこで寝てたらいくら暖かくても風邪引くぞ」
 陽射しがあると言っても今は冬。寒いことには変わりない。アメリカの体を揺すって起こしてやる。
「ん、んー……」
 アメリカは眠りを妨げた相手に少なからず苛立ちを覚えながら目覚めた。普通なら自分以外に誰もいないはずの家なのだ。
「いつまで寝てんだよ」
 呆れたイギリスの声でアメリカは完全に目が覚めた。
「……イギリス。なんで君がこんなとこにいるんだい?」
「たまたま通りかかっただけだ」
「そうかい」
 アメリカは興味無さそうに伸びをした。テーブルで寝ていたからか、体のあちこちが悲鳴を上げた。
「で? 君はわざわざ俺を起こすために来た訳じゃないだろう」
 イギリスを見つめるアメリカの瞳には嫌悪感も尊敬も無かった。ホント生意気になりやがって、とイギリスは内心舌打ちをした。
「お前を起こしに来た訳じゃねぇが、目的があった訳でもねぇ」
「君の言い方は分かりづらいな」
 アメリカは鼻で笑って、席を立った。突然のことで、イギリスは目を丸くした。それを見てアメリカはまた笑った。
「一応客なんだから、いつまでも立たせておく訳にはいかないからね。お茶でも淹れるよ」
 それから、コーヒーしか無いけどいいかい? と付け足した。
「茶葉も無いのか、お前の家は」
「茶葉があっても俺は飲まないからな」
 イギリスが皮肉って言うとアメリカは肩をすくめた。
 しかし、思い出したように付け足した。
「茶葉あったかもしれない」
 途端、キッチンへ走り出した。イギリスはコートをそこら辺の椅子にかけ、慌てて後を追った。
「急に走るな、バカ」
「あったぞ、茶葉」
 アメリカは誇らしげに歯を見せた。思わずイギリスは頭を抱えてしまった。
「淹れてくれよ。久々にイギリスの淹れてくれた紅茶が飲みたいんだ」
 押しつけるようにそれを渡し、一方的にアメリカは告げた。手の中とアメリカを見比べ、イギリスは眉を下げた。
「客が淹れるって矛盾してるじゃねぇか」
「細かいことは気にするな! そんなことだから君はハゲるんだぞ」
「ハゲてねぇよ!」
「じゃあ眉毛か」
「意味分かんねぇよ、お前」
 イギリスはお湯を沸かしながら気づいた。
 もしかしたら、一緒に紅茶を飲みたかったのかもしれない。きっと許す日は来ないだろうけど、何かを共有することを望んでいたんだ。そういえばアメリカと紅茶を飲んだのはいつだっけ。

 紅茶を淹れるイギリスを背中を見ながらアメリカは気づかれないように溜め息をついた。
 さっき寝ていた時、懐かしい夢を見ていた。全くなんというタイミングでイギリスは来てくれたんだ。ついてるのか、ついてないのか。夢のおかげで急に紅茶が飲みたくなってしまった。夢で見たあの日が紅茶を一緒に飲んだ最後だったから。

 懐かしいな、と不器用な二人が笑ったのはほぼ同時。

APHの倉庫掃除のサントラはずるい。

2009.12.24